離婚が成立して、養育費の支払いの約束をしたのに、ほどなく相手からの支払いがなくなった。こういうケースは、割と多いのが現実です。
こういう場合、養育費の支払いを確保するためにどういう方法があるのか知っていますか?
養育費確保のためどういう手段をとれるかは、養育費の決め方によって、変わります。
以下、養育費の決め方ごとに、あなたがとることのできる手段について解説します。
養育費の決め方による対応の違い
1 夫婦の話合いで決めた場合
裁判所の手続きを利用しないで、夫婦間の話合いで養育費の支払いについて決めた場合、口頭の合意か書面の合意かに関わらず、出来ることは、相手方に直接請求する方法以外にありません。しかし、すでに支払が滞っている場合、直接請求しても支払いを確保するのは難しいでしょう。
そこで確実な支払いを確保するためには、新たに①公正証書を作成するか、②養育費に関する調停・審判をする必要があります。①②の手段を用いることで、債務名義(強制執行できる効力)を得ることで、給料の差押や、預金の差押等を行うことが出来ます。。
2 家庭裁判所の調停・審判で決めた場合
家庭裁判所の調停や審判で養育費の取り決めをした場合は、以下の3つの方法が選択可能です。
- 履行勧告
- 履行命令
- 強制執行
根拠条文:家事事件手続法289条、290条
3 離婚訴訟の中で決めた場合
離婚訴訟の中で養育費の取り決めをした場合も、以下の3つの方法が可能です。
- 履行勧告
- 履行命令
- 強制執行
根拠条文:人事訴訟法38条、39条
4 公正証書で決めた場合
公正証書の中に、強制執行認諾文言がある場合は、強制執行が可能です。
履行勧告・履行命令は利用できません。
履行勧告とは?
履行勧告(りこうかんこく)とは、家庭裁判所の調停や審判などで決まった金銭の支払いや面会交流等の義務を守らない人に対し、家庭裁判所が、義務を履行するよう勧告する手続きです。
第1 どんな場合に利用できる?
養育費の不払い、婚姻費用の不払い、子との面会交流の実施など。
第2 利用方法などについて
1 申出する人
権利者が行います。
2 申出方法
口頭、書面のどちらでも可能です。
3 必要費用
無料で行うことが出来ます。印紙代はかかりません。
4 必要な書類
⑴ 調停調書や審判書の写し
⑵ 義務を守っていないことが分かる資料
例:振込口座の預金通帳の写しなど
⑶ 申出書
家庭裁判所の受付窓口に書式があります。
5 回数制限
回数制限はありません。何度でも利用できます。
第3 効力および実現性
【利点】履行勧告は、無料で簡単に出来る手続きです。
【弱点】しかし、履行勧告はあくまで勧告にすぎないので、相手方に対する強制力はありません。心理的プレッシャーを感じない相手方だと、履行勧告を無視されてしまい効果が期待できません。
家事事件手続法289条 (義務の履行状況の調査及び履行の勧告)
義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所(第九十一条第一項(第九十六条第一項及び第九十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により抗告裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては第一審裁判所である家庭裁判所、第百五条第二項の規定により高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては本案の家事審判事件の第一審裁判所である家庭裁判所。以下同じ。)は、権利者の申出があるときは、その審判(抗告裁判所又は高等裁判所が義務を定める裁判をした場合にあっては、その裁判。次条第一項において同じ。)で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。
人事訴訟法38条(履行の勧告)
第三十二条第一項又は第二項(同条第三項において準用する場合を含む。以下同じ。)の規定による裁判で定められた義務については、当該裁判をした家庭裁判所(上訴裁判所が当該裁判をした場合にあっては、第一審裁判所である家庭裁判所)は、権利者の申出があるときは、その義務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができる。
2 前項の家庭裁判所は、他の家庭裁判所に同項の規定による調査及び勧告を嘱託することができる。
3 第一項の家庭裁判所及び前項の嘱託を受けた家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に第一項の規定による調査及び勧告をさせることができる。
4 前三項の規定は、第三十二条第一項又は第二項の規定による裁判で定めることができる義務であって、婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る訴訟における和解で定められたものの履行について準用する。
履行命令とは?
履行勧告が、功を奏しない場合、次に履行勧告をする選択肢があります。
履行命令(りこうめいれい)とは、家庭裁判所の調停や審判などで決まった金銭の支払い、その他財産上の給付の義務を守らない人に対し、家庭裁判所が、義務を履行するよう命令する審判手続きです。
第1 どんな場合に利用する?
養育費の不払いや婚姻費用の不払いなど金銭の支払義務の場合に利用することが出来ます。
第2 利用方法などについて
1 申出する人
権利者が行います。
2 申出方法
書面で行います。
3 必要費用
- 収入印紙:500円
- 予納郵券
第3 効力および実現性
【利点】 履行命令は、義務者が正当な理由なく命令に従わない場合、10万円以下の過料の制裁になる場合があります。この点で、履行勧告よりも、相手方に対し、より履行する心理的なプレッシャーを与えることが出来ます。
【弱点】しかし、10万円以下の過料程度では、全く意に介さない義務者もいます。
根拠条文:家事事件手続法290条(義務履行の命令)
義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所は、その審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
2 義務を定める第三十九条の規定による審判をした家庭裁判所は、前項の規定により義務の履行を命ずるには、義務者の陳述を聴かなければならない。
3 前二項の規定は、調停又は調停に代わる審判において定められた義務の履行について準用する。
4 前三項に規定するもののほか、第一項(前項において準用する場合を含む。)の規定による義務の履行を命ずる審判の手続については、第二編第一章に定めるところによる。
5 第一項(第三項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。
人事訴訟法39条(履行命令)
第三十二条第二項の規定による裁判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠った者がある場合において、相当と認めるときは、当該裁判をした家庭裁判所(上訴裁判所が当該裁判をした場合にあっては、第一審裁判所である家庭裁判所)は、権利者の申立てにより、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずることができる。この場合において、その命令は、その命令をする時までに義務者が履行を怠った義務の全部又は一部についてするものとする。
2 前項の家庭裁判所は、同項の規定により義務の履行を命ずるには、義務者の陳述を聴かなければならない。
3 前二項の規定は、第三十二条第二項の規定による裁判で定めることができる金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務であって、婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る訴訟における和解で定められたものの履行について準用する。
4 第一項(前項において準用する場合を含む。)の規定により義務の履行を命じられた者が正当な理由なくその命令に従わないときは、その義務の履行を命じた家庭裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
5 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
6 民事訴訟法第百八十九条の規定は、第四項の決定について準用する。
強制執行
履行命令も、功を奏しない場合、最終手段としての強制執行(きょうせいしっこう)をすることになります。
履行命令や、履行勧告をしないで、いきなり強制執行手続を行うこともできます。相手が任意に履行してくれることを全く期待できないような場合には、最初から給料の差押などをした方が確実でしょう。
【利点】 強制執行手続は、給料の差押や、預金の差押が一般的に利用しやすいです。差押は、相手方の意思に関係なく、強制的に支払いを実現する手続きですので、その効果は絶大です。
【弱点】 しかし、強制執行手続は、履行命令や履行勧告とは異なり、やや複雑な手続きが要求されますので、一般の方が独力で行うにはハードルが高いです。したがって、弁護士などの法律の専門家に依頼せざるを得ないため、手続費用がかかります。
まとめ
以上、養育費の不払いがある場合の対応手段について解説しました。今回の記事の内容のポイントを以下にまとめましたので参考にしてください。
- 養育費の決め方によって、不払いの場合の対応方法が異なる。
- 裁判所の手続きで養育費を決めた場合が、一番選択肢が多い。
- 話合いだけで養育費を決めた場合、相手の任意の支払いを期待する以外にない。
- 履行勧告は、無料で簡単にできる反面、勧告にすぎないので、実行性は低い。
- 履行命令は、10万円以下の過料の制裁がある分、履行勧告に比べれば実行性はあるが、強制執行ほど強くはない。
- 強制執行は、相手の意思に関係なく、財産を差し押さえることができるので、実効性は強いが、手続きが複雑で個人で行うのは困難である。
- 強制執行をいきなり行うこともできる。
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