皆さんは、誰かの遺産を相続したことはありますか?
実は、相続は、不動産や預金などのプラスの財産だけではなく、借金等のマイナス財産も相続するって知っていましたか?
被相続人の借金等のマイナスの財産の方が、不動産や預金などのプラスの財産よりもはるかに多い場合(債務超過といいます)、相続人には、相続するメリットよりもデメリットの方が上回ってしまいます。
このように相続することでかえって損してしまう場合にまで、相続しなければならないのでしょうか?
このような場合相続人は、相続放棄をするという選択肢があります。
そこで、今回は、相続放棄のやり方について、弁護士が解説します。
相続放棄のやり方について
1 どこの裁判所にするのか?
相続放棄は、被相続人(亡くなった人)の最後の住所地の家庭裁判所に行います。
管轄裁判所は、裁判所のホームページで調べることが出来ます。
例えば、被相続人の住民票の住所は東京都だが、茨城県水戸市に住んでいて亡くなった場合は、茨城県の水戸市を管轄する水戸家庭裁判所に相続放棄を行います。
2 相続放棄できる期間は?
相続放棄できる期間は、原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月間です。
被相続人の死亡時から3か月間ではありません。
例えば、疎遠になっていた自分の父が2021年3月10日に死亡したが、死亡の事実を知ったのが2021年6月2日だった場合、相続放棄の期間は、6月2日から3か月間です。
また、この期間を経過してしまった場合でも、例外的な事情がある場合には、相続放棄が認められる場合があります。しかし、この場合は、弁護士などの専門家に一度相談に行った方がよいでしょう。自力で対処するのは難しい場合があります。
3 相続放棄のやり方
相続放棄は、被相続人の最後の住所地の管轄する家庭裁判所に、必要書類(戸籍謄本、住民票の除票等)を添付して、相続放棄の申述書を提出する方法で行います。
被相続人の最後の住所地が遠方で、家庭裁判所の窓口まで直接出向くことが難しい場合には、郵送による方法で行うこともできます。
放棄手続はそれほど複雑ではなく、自分で行うことが出来ますので、必ずしも、弁護士や司法書士等の専門家に相続放棄手続を依頼する必要はありません。もちろん、法律の専門家に依頼すれば、煩わしい手間を省くことが出来、時間の節約になりますので、費用対効果を考えて決めてください。
弁護士に依頼した場合の費用の相場は、1人当たり、おおよそ3万円から10万円程度です。
申立費用
- 収入印紙:800円
- 予納郵券:裁判所により異なります。
申立書式
家庭裁判所の窓口もしくはインターネットで申立書式を入手出来ます。
申立人が20歳未満の場合は、こちらの書式。
必要書類
【共通】
1. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
2. 申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
【申述人が、被相続人の配偶者の場合】
3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
第一順位相続人【申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)の場合】
3. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4. 【申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合】
被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
第二順位相続人【申述人が、被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)の場合】
(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
3. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4. 【被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合】
その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
5. 【被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいる場合】
その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
第三順位相続人【申述人が、被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)の場合】
(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
3. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
4. 【被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合】
その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
5. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
6. 【申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合】
被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人が生きている間の相続放棄は可能か?
被相続人がまだ存命中に、相続人になる予定の人は、あらかじめ相続放棄をすることは出来るのでしょうか?
例えば、実父が、多額の借金を抱えており、めぼしい財産も全て売却してしまい手元に何もない状態で、自己破産もしていません。
父の死後、息子の自分は、相続放棄をすることが確実といえるような場合です。
【結論】
被相続人が存命中は、相続放棄は出来ません。
民法915条は、相続開始後、すなわち被相続人が亡くなった後に相続放棄できると規定しており、現行法で、相続開始前(被相続人の存命中)にあらかじめ相続放棄しておくことが出来る法律上の規定はありません。
根拠条文:民法915条 (相続の承認又は放棄すべき期間)
- 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
- 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
民法938条 (相続の放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法939条 (相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
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