着手金と報酬金、弁護士費用を2回払う理由

 依頼者が、弁護士に支払うお金には、着手金(ちゃくしゅきん)と報酬(ほうしゅう)の2種類があります。皆さんは、この2つの違いが分かりますか?
 今回は、着手金と報酬金について、それぞれの意味について解説します。

目次

1 着手金と報酬金の意味

 ⑴ 着手金とは、事件を依頼した際に払う費用のことで、事件の成功・不成功に関わらず、支払う費用になります。
  着手金は、どこの事務所のホームページでも基本的には返金しませんと書かれています。

 ⑵ 報酬とは、成功報酬のことで、事件が終了した際に、発生する費用です。

 一般的には、報酬金の額は、事件の成功度合いに応じて増減します。

 依頼者の要求を100%成功した場合だけでなく、部分的に成功した場合にも発生するのが一般的です。

2 弁護士が着手金と報酬金と費用を2度請求する理由

 行政書士、社会保険労務士、司法書士など他の士業の方は、着手金と報酬と2回に分けて費用を請求することは、一般的ではありません。

 弁護士以外の士業においても、法律で着手金と報酬とに分けて費用を請求することを禁じられているわけではありません。

 それにもかかわらず、弁護士だけが、着手金と報酬金に分けて費用を請求するのが通例なのです。

 これは、一体どうしてでしょうか?

 それは、以下に述べる通り、弁護士と他の士業の仕事の性質の違いからくるものなのです。

1 弁護士の仕事の特徴

 弁護士の仕事は、主に、当事者間の紛争を扱います。

 紛争の相手方と意見や利害関係が対立しており、どちらの言い分が正しいか争う場合が多いのです。

 場合によっては、裁判にまで発展して争います。

 和解をせずに判決まで行くと、どちらの言い分が正しいか、勝敗が決まります。

2 他士業の仕事の特徴

 これに対し、司法書士、行政書士社会保険労務士、税理士の基本業務は、各種行政機関に提出する書面の作成・届け出の代行業務です。

 行政機関に提出する書面は、規定のルールに従って作成すれば足りるので、相手方(行政機関)と対立し、結果が左右されるという事はありません。

 極論すれば、成功して当たり前の仕事がメインなのです。

 司法書士に登記を依頼したけど、失敗して出来なかった。税理士に確定申告を依頼したけど、今回は、上手くいかなかったなどということは通常想定されていません。

 ですので、書類作成手数料以外に成功報酬という考えに馴染みにくいのです。

3 弁護士が着手金をとる理由

 前述したように、弁護士は基本紛争がメイン業務ですので、事件によっては、言葉は悪いですが、負け戦に付き合なければならない場合もあります。

 その場合に、成功報酬だけの契約をすると、結果、費用倒れ、最悪ただ働きになりかねないのです。

 完全に負けが予想される場合だけでなく、例えば、相手の要求の20%は退けられるというような場合に、20%退けた分の報酬だけで、事件に費やしたコストが回収できるかといえば難しいです。

 例えば、相手方から300万円の慰謝料請求の裁判をされ、240万円まで減額の和解をしました。

 この場合、差額60万円の2割を報酬とした場合、報酬金は12万円という事になります。

 弁護士が裁判の代理をして、解決するまでに半年以上かかった場合、報酬12万円では、人件費や固定費などの事務所の維持費を賄うことは困難です。

 そこで、事件に勝とうが負けようが、弁護にかかる最低限のコストは着手金として支払ってもらう必要があるのです。

 仮に、着手金0円とした場合、確実に勝ちが予想される事件しか受任することが出来なくなってしまいます。

 ですので、あらゆる種類の事件について、着手金0円とすることは、現実的でないことがお分かりいただけるかと思います。 

2 着手金0円の注意点

 ところで、ここ最近、着手金0円、完全成功報酬制を掲げる弁護士事務所がちらほら増えてきました。

 着手金は、事件により異なりますが、一般的に10万円から40万円程度かかるので、これが0円なのは非常にお得と考えるのが普通です。

 しかし、実際世の中にそんなに虫のいい話はありません。

 よくよく弁護士費用の規定を確認してみると、成功報酬の金額に着手金分を上乗せしている場合が多いです。

 結局、着手金0円の弁護士事務所も、着手金を支払う弁護士事務所も、弁護士に支払う金額の総額は大して変わらないことが多いのです。

 着手金0円のメリットは、事件が終了した時に一括して費用を支払うという、後払いのメリットと考えておくのが無難ではないかと思います。 

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