相手方に損害賠償請求したい、慰謝料請求したいという相談は多いです。
みなさん、「損害賠償請求」や「慰謝料請求」という言葉は知っていますが、その根拠については意外と知られていません。
そこで、今回は、損害賠償請求や慰謝料請求の法的根拠について解説します。
1 損害賠償請求の根拠は大きく2つある
損害賠償請求の根拠となる法的責任には、不法行為責任(ふほうこういせきにん)と債務不履行責任(さいむふりこうせきにん)の2種類があります。
どちらも民法に規定されています。
2 両者の違い
⑴ 債務不履行責任は、契約関係にある当事者間に発生する責任です。
契約とは、当事者間の合意により、当事者間に法律上の権利義務を生じさせるものをいいます。
どのような契約も、契約の相手方に対し、果たすべき義務があります。その義務を自分の落ち度で果たせなくなった場合に、相手方に発生した損害を賠償する責任が生じます。これを債務不履行責任といいます。
民法415条に規定されています。
根拠条文:民法415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
⑵ 不法行為責任は、契約関係にない当事者間でも発生する責任です。
交通事故、傷害事件、ネットの誹謗中傷、不貞行為等の場合に加害者が被害者に対し、負うべき責任です。誤解を恐れずいえば、不法行為責任は、加害者・被害者という構図が成り立つような場合に発生する責任です。
民法709条に規定されています。
根拠条文:民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
⑶ 不法行為責任と債務不履行責任がどちらも成立する場合
不法行為責任と債務不履行責任は2者択一の関係ではありません。したがって、両方の責任が同時に発生する場合もありえます。
典型的な例は、医療過誤の場合です。患者と医者は、診療契約を結び、医者には契約に基づいた医療行為を行う義務があります。
医者がうっかり手術でミスをして患者が重い後遺症を負ってしまった場合、診療契約に基づいた債務不履行と、医療ミスをしたことで患者の身体を傷付けたことによる加害者としての責任、すなわち不法行為の両方の責任を負います。
⑷ 消滅時効について
現在、人の生命・身体に関する損害に関する消滅時効期間は、債務不履行責任と不法行為責任のいずれも、現実的に権利行使が可能となった段階から5年になっていますので、時効の観点から、どちらを選択した方が有利ということはありません。
2020年4月の民法改正が施行される前は、債務不履行責任の消滅時効期間が権利を行使できるときから10年であったのに対し、不法行為責任の期間は、原則、損害と加害者を知った時から3年と短い期間に設定されていました。
時効期間に関する詳しい解説については、興味のある人は、以下の記事を参考にしてください。
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