多くの人にとって、弁護士はあまりなじみのない存在、一生に一度お世話になるかどうか。できることならお世話になりたくない。そんなポジションにあると思います。
しかし、不運にして、弁護士に依頼せざるを得ないような事件が自分に起こってしまった場合、どの弁護士に依頼したらよいの?
その疑問に応えるべく、今回は、弁護士の私が、勝手な私見を自由に述べたいと思います。
あくまで1つの考えとして参考にしてください。信じるも信じないもあなた次第!
弁護士選びの正解は相性が重要である
弁護士選びの基準は、人柄とか雰囲気話しやすさ等の合う人、すなわち相性が重要であると私は考えています。
なぜなら、普段法律に馴染みのない方が事件を依頼する時点において、弁護士の能力や専門性を見抜くことは難しいと考えるからです。
しかし、いくら相性が良くても、弁護士との間でトラブルが起きては元も子もありません。
そこで、以下、弁護士と依頼者の間でよくある苦情やトラブルについて説明しますので、参考にしてください。
弁護士とのよくあるトラブル4選
1 連絡がとれない
依頼者からの苦情で一番多いのが弁護士と意思疎通が出来ないという苦情です。
事件を依頼したのだけれけど、弁護士から半年以上経つのに一度も連絡がこない。
心配になってこちらから電話したけれど、いつも事務員が応対するだけで、弁護士は出てこない。折り返しの連絡もこない。
一体全体弁護士は何をしているんだ。
この連絡が取れないという苦情は、弁護士会にまで来ることがあります。
依頼した弁護士にいくら連絡しても埒が明かないので、所属する弁護士会に苦情が来るのです。
苦情のあった弁護士に対し、弁護士会が問い合わせて、ようやく連絡がつくようになります。
しかし、一度このような状況になってしまうと、依頼者と弁護士の信頼関係はボロボロで、信頼を取り戻すのは困難です。
この弁護士に頼まなければ良かったと、後悔しないように、連絡がきちんと取れそうな弁護士かどうかは、依頼する段階で、じっくり冷静に見極めましょう。
結構、重要なポイントです。
2 仕事が遅い
連絡が取れないと同じくらいよくあるトラブルです。
弁護士から、「協議離婚は出来なさそうなので、離婚調停をしましょう。」等と打ち合わせてから、1年が経過しようとしているのに、未だに調停を申立てたとの連絡が来ない。一体、どうなっているのか。
原因は弁護士によりけりですが、①受任している事件の件数が多くて手が回らなかった、②調停を申し立てることをうっかり忘れていた、③精神的に病んでおり業務を行うことが出来なかった等。
いずれの理由にしろ、依頼者からしたらたまったものではありません。結局、この弁護士に頼まなければ良かったということになりますので、上記①~③の要因がないか慎重に見極めましょう。
場合によっては、弁護士との契約を解除して、別の弁護士に依頼することも検討してください。
3 勝手に事件を進めてしまった
弁護士に依頼して、交通事故の裁判を依頼しました。
訴訟を提起したとの連絡を受けて以降、しばらく弁護士から連絡がありませんでした。
訴訟提起から半年以上経過したある日、弁護士から裁判所から和解案が出ましたとの連絡。
弁護士事務所に和解案の説明を受けに行ったところ、これまで相手方と裁判で色々なやり取りがあったようで、弁護士は、自分の認識とは異なる事実を主張していました。それを前提に裁判所の和解案が出ており、到底納得できません。
なぜ、自分に事実関係をきちんと確認しないで、勝手に裁判を進めてしまったのか。
これは、決して多くはありませんが、割と深刻なトラブルです。
民事裁判では、当事者の主張のうち自分に不利益な部分は自白にあたり、原則として撤回が出来ません(民事訴訟法179条)。
もはや裁判官が、あなたの認識と異なる事実関係で心証(しんしょう)を抱いてしまうと、挽回するのは困難です。
これ以外にも、示談交渉を進めていく中で、相手方と示談の内容を勝手に決めてしまうというトラブルもあります。
示談交渉の場合は、裁判と異なり、示談書に署名押印するまでは内容が確定しませんので、それまでに提示した条件を撤回することは可能です。
しかし、自分に断りなく勝手に相手方と示談交渉を進めてしまった弁護士に対する不信感は容易に払しょくすることは出来ないでしょう。
原因は、弁護士が、最初に打ち合わせたときに依頼者から聞いた内容と、手元にある資料(証拠)から、事件の内容を全て把握したものとの勝手な思い込みが主な原因として考えられます。
4 報酬でもめる
事件が終了した後、報酬でもめる。これも多いトラブルの1つです。
これについては、別の記事で解説しましたので、そちらの記事もご覧ください。
まとめ
以上が、弁護士に対する苦情・トラブルでよく聞くものです。弁護士選びのポイントは、まず何よりもトラブルにならない弁護士を選ぶことです。
以下に、トラブルを回避するためのポイントをまとめましたので参考にしてください。
- 弁護士との連絡は密に行いましょう。
- 弁護士とのコミュニケーション不足が、後々、様々なトラブルの原因になります。
- 連絡が取れない、仕事が遅い、勝手に手続きを進めてしまうなどのトラブルを抱えてしまった場合、委任契約を解除することも視野にいれましょう。
- 弁護士と報酬でもめないように、契約時にきちんと確認しておきましょう。
ちなみに、ここに紹介した例は、私自身の実体験を紹介したものではありませんのであしからず!
弁護士の専門性は必要か?
次に、弁護士選びでこだわる人はこだわるポイントである、専門分野について考えてみます。
離婚や、相続、交通事故など一般的な民事事件についても、専門性を重視している相談者は一定数います。中でも「先生は、離婚の専門家ですか?」という問い合わせが多いです。
そこで、以下、弁護士の専門性について、専門性は必要か、依頼者が専門性を見抜くことが出来るかなどについて私見を述べます。
1 専門性が必要な分野か?
まず、あなたの弁護士に相談・依頼したい問題は、専門性が必要な分野なのかについて。
この点、医療過誤訴訟、特許訴訟、建築紛争等は、法律の知識だけでなく、その専門分野に関する技術に対する理解や知識がないと、中々扱うのが難しく、弁護士により差が出る分野かと思います。
他方、離婚、交通事故、相続等は、多くの弁護士が日頃から一定数の事件を扱っており、独自の技術に対する理解や知識がそれほど要求されることが多くないので、弁護士により能力の差が出づらい分野かと思います。
したがって、 医療過誤訴訟、特許訴訟、建築紛争等の分野であれば専門性を重視し、それ以外の分野であれば、それほど専門性を意識する必要はないと考えます。
なお、この点については、弁護士によって、異論反論のありうるところです。離婚や相続、交通事故等の分野においても専門性は必要であるという意見もあります。
2 専門性は見抜けるか?
では、仮に離婚など一般的な事件においても専門性が必要だとして、それを依頼者が正しく判断できるのでしょうか?
結論から言うと、弁護士の法的能力や専門性について、一般の方が正しく判断することは難しいと思います。
弁護士により異なりますが、私は、訴状や準備書面を裁判所に提出する前に、原則として毎回、依頼者に書面を送付して内容を確認してもらっています。
「書いてある内容に間違いがないか、訂正してもらいたい部分はないかを確認してください。」とお願いして送付していますが、おおよそ8割の依頼者は、「先生の書いてくださった内容で問題ないと思います。」との返事です。
また、裁判中に、依頼者とは何度も打ち合わせを行いますが、打ち合わせの中で、法律上の争点(時効、遺言書の有効性、過失相殺など)について詳しく説明した後、「今詳しく説明しましたが、結局、どういうことか分かりましたか?」と尋ねると、「すいません。何となくしか分かりませんでした。でも、問題ないので先生にお任せします。」となることが少なくありません。
もちろん、「それはお前の説明の仕方が分かりにくいからだろう。他人のせいにするな。」と言われれば、全面的に否定はできないのですが。
上記の私の例は除くとしても、弁護士であれば誰でも知っており使いこなせる法律の知識や争点でも、法律に馴染みのない依頼者からすれば、きちんと理解するのは決して簡単なことではありません。
高度な専門性を要求される分野であれば、尚のこと一般の方には??になると思います。
3 専門家かどうかよりも信頼関係が維持できるかが重要
多くの場合、依頼した弁護士が、その分野でどの程度の専門家で、他の弁護士と比べてどの程度有利に事を進めることが出来たかは、事件が終了しても明らかになることはないと思います。
弁護士は皆、一応、司法試験を通過して、司法修習を経ていますので(一部例外有)、法律の専門家です。そして、離婚事件も、相続問題も、交通事故も全て法律を駆使して事件を解決に導きます。
したがって、自分と弁護士との間で、円滑にコミュニケーションがとることが出来て、事件が終了するまでの間、信頼関係が維持出来たのであれば、ひとまず依頼して正解だったと考えてよいのではと思います。
なぜならば、上述したように、依頼した弁護士に対する不満やトラブルは、コミュニケーション不足が原因となっていることが大半だからです。
いくら専門性の高い優秀な弁護士に依頼しても、ほとんど話す機会がなければ、依頼者は、不安や不満を抱く傾向にあります。
4 専門性を掲げる弁護士はいない
ちなみに、弁護士は、「専門家」という広告表示をすることは基本的にしません。
これは、日弁連が定めた指針によって、特定の分野の専門の表示をしないのが望ましいとされているからです。
なぜなら、先に述べたように弁護士はみな一応法律の専門家ですが、特定の分野の専門家であるかどうかについては、弁護士の経験や知識を客観的に判断する基準がななく、依頼者を誤導するおそれがあるからです。
そこで、多くの弁護士は、専門とは言わずに、「注力分野」「○○に強い弁護士」等と広告宣伝をしています。
しかし、これは、単に、自分は特定の分野を積極的に取り扱ってますとアピールしているに過ぎません。
まとめ
以上、弁護士の専門性について私見を述べました。以下にポイントをまとめましたので、参考にしてください。
- 特許訴訟や医療過誤訴訟など特定の分野を除けば、専門性はそれほど重要ではない。
- 専門性よりも、弁護士との相性が重要。
- 弁護士の専門性を見抜くのは一般の人には困難である。
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